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口唇裂・口蓋裂の手術治療

口唇裂の手術

古典的な手術法

もっとも古い口唇裂手術法は「直線状切開法」と呼ばれ、割れているところを単純に縫合するだけのものでした。しかし、この方法では、きれいな形態のくちびるを作成することは困難であり、さまざまな手術法が試みられてきました。

三角弁法

口唇裂をよくみますと、キューピッドの弓といわれる口唇中央の特徴的な形態はそれなりに保存されており、但し、裂の存在により患側では上方に吊り上がってしまっています。
テニソンは、患側に三角弁を作製して、これを中央唇に挿入することにより、キューピッド弓を引下げて自然な形が得られる術式を報告しました。ランダールは、テニソンの三角弁法を精密にデザインする方法を考案し、改良を加えました。

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ミラード法

ミラード先生は、朝鮮戦争に軍医として招集され朝鮮半島にて従軍しました。
このとき朝鮮半島で唇裂の少年に出会ったと言います。ミラードは彼を見たとき、三角弁法とは異なる新しい口唇裂手術法の着想が浮かんだのです。
それは、鼻の下を切り上げて吊り上がった口唇を引き下げ、上方に生じた組織欠損には、患側口唇を伸展させて挿入する方法です。吊り上がった口唇はキューピッド弓を温存して引き下ろしてくることができ、そこに患側口唇を挿入すると、鼻翼も引き締まったかたちにすることができました。

millardope.gif原図はdr.ミラード

ミラード法変法 鬼塚法

わが国では、ミラード法に小さな三角弁を併用する、鬼塚法(鬼塚卓弥前昭和大教授)が広く用いられています。術者により細かい手術操作には違いがありますが、下図のようなデザインで手術をするのがミラード+小三角弁法 です。
ミラードの報告した原法は、不全唇裂では大変きれいな結果が得られましたが、裂の大きな完全唇裂では、十分にキューピッドの弓が下がらない、患側のキューピッド弓の頂点が吊り上がる、といった不満点が残りました。鬼塚、バーンスタインらは小三角弁を挿入することでこれらの欠点を克服しました。
ミラード自身は、鼻の下の切開を延長するなどの新たな術式を発表して、三角弁の挿入には賛成しませんでした。皮膚の性質から傷の目立ちにくい白人と、きずが目立ちやすい人種であるわれわれアジア人では、鼻の下を複雑に縫合するミラードの工夫よりも、小三角弁を挿入する鬼塚法のほうが、広く受け入れられています。

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Dr.Suzukiは、昭和大学形成外科で、鬼塚卓弥先生にご指導いただきました。

鬼塚先生の術式も1980年代に完成した鬼塚法と、その後さらに工夫された新鬼塚法があります。下の左側ふたつが新鬼塚法。右はトロント小児病院のDr.Fisherの発表したデザインですが、人中の形態に合わせたデザインを行っていて、三角弁の大きさと位置くらいしか違いがありません。

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口蓋裂の解剖と鼻咽腔閉鎖機能不全

cpmuscle2.jpg口蓋裂の解剖

  • 口蓋腱膜
  • 口蓋咽頭筋
  • 口蓋帆挙筋
  • 口蓋舌筋

口蓋裂では図のように口の中が割れています。そして、口蓋の奥の部分には骨はありません。
そのため軟口蓋と呼ばれますが,多くの筋肉がある重要な場所です。

口蓋裂では左右の筋が本来であれば、繋がっているべきところが割れているために、筋本来の運動が損なわれています。そのため,「鼻咽腔閉鎖機能不全」という状態です。

これは,軟口蓋と咽頭襞が密着して「鼻咽腔閉鎖」という状態をつくることがうまくできないことです。
そのために,ことばが鼻に抜けてしまう(開鼻声),嚥下時に鼻に食物が逆流する、ラッパがうまく吹けない(空気が鼻に漏れる)という症状がおこってきます。

口蓋裂の手術というは,単に裂を閉鎖することではなくて,「鼻咽腔閉鎖機能不全」を治療することが目的であり、機能改善のための手術なのです。

口蓋裂の手術時期、手術法

口蓋裂の手術法には,手術の時期によって、一期法と二期法とがあります。

一期法とは,1歳から1歳半くらいの年齢で硬口蓋から軟口蓋までをすべて1回の手術で閉じようとする方法です。ただし,歯ぐきの部分は別に述べる顎裂部骨移植を行うために,完全には閉鎖しないこともあります。歯ぐきの部分を閉鎖しなくても言葉などへの悪影響はありません。
一期法で行う手術法には,プッシュバック手術やファーロー法などがあります。

1歳程度で口蓋をすべて閉鎖するので,言語などは早く正常な発音をえられると考えれられます。しかし,早期に手術を行うことは上顎の発育にたいしては,マイナス要因とされています。そのために,次に述べるような2段階法を行う病院もあります。

スイスのチューリッヒ大学ではじめられた二期法では,1歳半くらいの時期に軟口蓋だけを閉じます。前方には口蓋裂が残存したままです。硬口蓋は6歳くらいで閉じます。
このように,硬口蓋が開いている期間が長いため,構音障害がおきやすいようです。言語療法士の先生と話をすると,やはり言語的には問題があるようです。
また,二期法では,口蓋床(ホッツ床)を生直後より使用して管理するのがふつうです。
口蓋床は,哺乳にも好影響をあたえるので,一期法手術を行う場合でも床を使用する場合もあります。

Furlow 法 (ファーロー法)

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Furlow法は最近広く行われている手術法です。
口腔側、鼻腔側でそれぞれZ形成を行いますが、筋肉を含むように口蓋垂側に基部をもつ粘膜筋弁を作製することにより筋層を後ろに移動させます。

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裂の幅が大きいと、とくに口蓋側に基部をもつ弁はうまく移動しないため、縫合が難しくなります。
比較的難易度の高い手術法です。

プッシュバック手術は、1937年ワーデルとキルナーの発表した方法に端を発しています。
口蓋粘膜と骨膜を含んだ粘骨膜弁には大口蓋動脈が含まれ、血行に優れます。
しかし、粘骨膜弁の後方移動により前方に生ずる骨の露出部が瘢痕化することで、上顎骨の発育障害がおこります。この手術の問題というよりは、乳児期に骨露出創が瘢痕治癒することが問題と考えられます。

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(この絵は札幌医大形成外科よりお借りしました) 

そこで、手術の工夫として一部を粘膜弁とする変法も行われています。また、粘膜の欠損部を人工真皮で被覆することも行われています。

また、ほぼ、同様に口蓋裂の筋肉の処理を行った後で、まったく、口蓋弁を後方に移動させないで縫ってしまう手術法もあります。<Two Flap法>

すると、PUSHBACK・・・すなわち、口蓋を後方に下げるということは不要なのでしょうか。

日本では、白人のかたの口蓋裂手術を経験することはほとんでありませんが、実は、人種による頭や顔の形のちがいも、手術に大きく影響するようなのです。

欧米の報告をみますと、プッシュバックもせずに簡単に口蓋を縫うだけで、かなり、口蓋裂の術後言語成績がよいのですが、実は、白人は顔の彫りが深いことも関連して、口蓋が長いという人類学的な特徴があるのだそうです。

ただ、割れてるのを縫うだけでも、口蓋垂が咽頭後壁まで届いてしまう。そんな形態だと言います。

わたしたちは、数多くのファーロー法手術を行っていますが、そうした意味からは、適切な口蓋形成手術を行えば、いわゆるプッシュバックは不要に思います。

アジア圏でも台湾のチャングン病院では、プッシュバックと同様に筋処理を行って、かつ、プッシュバックをしない、Two Flap法をやっていました。

裂が大きな口蓋裂ではTwo Flap法と口蓋裂の筋層再建をきちんと行い、小さめにZ形成を行う手法をとっています。

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http://emedicine.medscape.com/article/1279283-treatment#d10
より引用した図です。